なぜ、有事にドルが買われるのか?
「有事」とは主に戦争・地域紛争・自然災害のこと、広義には緊張・警戒が高まることも含まれるようです。
そして「ドル」とは、もちろん米ドルのことです。
米ドルは1971年に各国が変動相場制を導入した後、取引量が多く流動性があり、かつ貿易・金融取引で国際的に幅広く利用されている通貨でもあります。
つまり、有事の際には「信頼性が最も高い米ドル」が 安全資産として買われる傾向が長らくありました。
しかし、近年の有事について振り返ると、必ずしもドル 買いになっていないのがわかります。
過去20年の有事について
下の表は、2000年以降に起きた各「有事」において、米ドルの市場動向を示す代表的指数「米ドルインデックス」の変化率を表したものになります。
ドル上昇を青色、ドル下落を赤色で色分けしました。
※出所・三井住友トラスト・アセットマネジメント
初日においてドル下落となっており、有事のドル買いとはなっていないことが分かります。
また、最初の反応が長くは続いて いないということも、重要なポイントです。
過去20年のドル円相場
次に、2000年以降に起きた各「有事」の値動きをチャートで見ていきましょう。
米同時多発テロ
2001年9月11日、120円台で推移していた米ドル/円相場は118円~122円の乱高下を演じた後、9月20日に向け115円台まで円高ドル安が進行しました。
米国が有事(テロ)の対象となったことで「有事のドル買い」が起こらなかったと指摘されています。
リーマンショック
2008年9月にリーマン・ブラザーズ(当時、米国の大手投資銀行)が経営破綻したことをきっかけに世界的な株価下落・金融危機が発生したことからリーマンショックと言われています。
金融機関への信用不安と第二の安全通貨としての円買いから、米ドル/円相場はたった1日で98円台から90円台まで7円以上の円高が進行しました。
東日本大震災
2011年3月11日に発生した巨大地震と、その後の福島原子 力発電所の事故を受けて、米ドル/円相場は一時、76円台に急伸し、戦後最安値を約16年ぶりに更新しました。
自然災害時は為替市場は混乱する
「米同時多発テロ」や「リーマンショック」から有事の際には、その国の通貨から他の安全性のある通貨に乗り換える傾向が見られました。
しかし、「東日本大震災」は日本の有事であるにも関わらず、なぜ円高が進行したのでしょうか?
阪神・淡路大震災の際も同様で外貨売りが進み、急激に円高方向に推移した経緯があります。
※一説には、日本企業や投資家が保有する海外資産を円に替えて震災による損失を埋めるのではないかと予測し、大規模な円買いを仕掛けたという説があります。
為替の相場も時代とともに変化する
「有事のドル買い」という言葉は昔の話、少なくとも2000年以降は、あまり見られなくなってきているようです。
同時多発テロやリーマンショックが米国発だったことに加え、EUや対外純資産(海外に保有する純資産)が世界一の日本の円なども強くあり、米ドルの存在感が以前より弱まっているとも考えられてます。